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灯台の光 波打ち際は囲いの庭
特急列車は相も変わらず閑古鳥
星座の光 線路の隙間に茂る雑草
寝台列車も星と日付と共倒れ
通過駅に佇む影法師
座席の向かいは鈍色[ニビイロ]シート
「お切らせ願います。」
空に水飛沫 いたずら描きの道が交わる
看守が微笑む偶然を寝そべり待ちぼうけ
すす払い 指でなぞる曖昧な時刻表
裂けて 避けた 鈍行列車
点いて 消える きまぐれ信号
直せ 叩け 切り換えスイッチ
歪み 並ぶ 使い捨てのレール
本当は思ってなんかいやしない
その腕で抱き締めてもくれやしない
積もりに積もった 置き去りの祝詞[ノリト]も空へ帰し
がらんどうの客室の窓 紺の空に流れるひつじ雲
どうせすぐに見えなくなる それは誰が望んだ成れの果て
有限の砂浜 近付く満潮 消えた連絡船
深夜二十四時 閉じ込め締め出せ シャッター街
ざわざわ燈る[トモル]真鍮[シンチュウ]のランプから
山吹色の雫が影濡らす
「降車終了、車庫に入ります。」
さあ響け汽笛よ 遠く遠く大熊座まで
相席の山高帽[ヤマタカボウ] それでも幸せかと問い質せ
うわ言の名簿に竜胆色[リンドウイロ]の星が降る
呑めや 唄え 春の影向[ヨウゴウ]
鳴らせ 踊れ 夏の神楽
大判 小判 秋の奉納
拾え 零せ 冬の豊穣[ホウジョウ]
本当は噛み締めてなんかいやしない
明日の日付も今日も飲み込んじまえ
咀嚼の時間も 緊急停車にも気付きはしない
車掌はでたらめの口上 終の駅[ツイノエキ]の足音蹴り飛ばし
車両の床を転がる胡桃 それは誰の望んだ成れの果て
燃ゆる石炭 昇る黒煙
醒めた現世[ウツシヨ] 見えないしなびた林檎
本当は思ってなんかいやしない
その腕で抱き締めてもくれやしない
積もるだけ積もった その願いが背中[セナ]を押す
がらんどうの客室の窓 紺の空に流れるひつじ雲
どうせすぐに見えなくなる それは誰が望んだ成れの果て
主人のいない吊り革はゆらゆらと
誰がために列車は常世[トコヨ]を走る
踏まれて散らばる 切符のお値打ちは行方知れず
紡がれない墨染めホーム 瑠璃の空に消え行くひつじ雲
僅かに照らす灯台の光 それはお前が望んだ成れの果て